志方あきこの各曲レビュー
各エレメントそれぞれの曲に込めた想い、制作裏話を志方が語ります。

風のエレメント
01.調和〜風来の調べ〜
02.遥かなる旅路
03.軌跡
04.風と羅針盤


火のエレメント
05.調和〜焔の共鳴〜
06.埋火
07.レプリカーレ
08.うみねこのなく頃に〜煉獄〜

水のエレメント
09.調和〜泡沫の子守唄〜
10.久遠の海
11.アオイロ缶詰
12.追想花

地のエレメント
13.調和〜大地の讃歌〜
14.謳う丘〜Salavec rhaplanca.〜
15.Amnesia
16.調和〜Harmonia〜
17.Harmonia〜見果てぬ地へ〜



01.調和〜風来の調べ〜
「Harmonia」は各エレメント毎に4つのセクションに分けて、楽曲を収録しています。
セクションが変わるごとに、そのエレメントセクションのプロローグとして小曲を頭に収録しています。
その小曲が調和シリーズです。
調和シリーズには、実は仕掛けがあるのですが、それは調和〜Harmonia〜の楽曲説明の時に、書かせていただきますね。


- 遥かの旅へ 風は空を翔ける 見上げた暁の 彼方へ消える -

風のエレメント(01〜04)のテーマは“旅”です。
各曲、それぞれ旅をテーマに作品を創ってゆきました。
風のエレメントのプロローグとなるこの曲では、このテーマ詞に合わせて、曲を創りました。

遥か高き天空を、透明な渦に乗って、流れてゆく風。
耳を澄ますと聴こえてくるのは、風の精霊達の歌声。
精霊達は、強く弱く流れる風と戯れ、広い空を舞い踊ります。

コーラスを収録する時は、大抵収録前にフレーズを決めることなく、
収録の時に思いついたものを、その場で録音していきます。
コーラスを収録している時、小さな風の精霊の囁きが高い空のあちこちから聞こえてくる・・・、
そんなイメージを頭の中で思い浮かべながら、コーラスを重ね、収録していきました。

風の精霊のささやき、そして、歌は、やがて重なっていき、大きな流れとなって行く。

テーマ詞のセクションの歌唱に、その風の歌声の奔流を感じていただけたら、
とても嬉しいです!
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02.遥かなる旅路
この曲は、昔のシルクロードを舞台に、
“人々の旅路”という題材をテーマにして、曲を創りました。

中国の敦煌を出発して、長い“絹の道(シルクロード)”を辿ってゆく隊商の列。
楼蘭をくぐり、ウィグルの地を抜け、旅はどこまでも続いていきます。
時には、“無限の死”という名のタクラマカン砂漠で、癒えない渇きに苛まれ。
時には、アラブの地の華やかな誘惑達に手招かれて。
けれど、けして歩みを止めることなく一行は旅を続け、
やがて、夢に見た終着の地、トルコへと辿り着きます。

この曲で特に工夫した点は、
・ 曲中の旅路の風景に合わせて、セクション毎に曲のアレンジや演奏を変えてみた事。 と、
・ 歌詞で、ウィグル語とトルコ語と、2カ国の言語を起用した事。  です。

この曲は、アルバムの中で一番、風景の移り変わりが多い曲なので、
旅の空気を出来る限り感じてもらえるように、
各国の民族的な楽器を多用し、歌詞もその国の言語をそれぞれ取り入れてみました。

楽しかった事は、
アジア大陸の言語は、発音や歌唱法が各国でかなり異なっている為、
その国の曲調や文化を学びながら、歌い方や曲の展開を色々模索していくのが、
意外とのめりこみそうな位に、面白かったです。
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03.軌跡
この曲は “風の精霊達の旅” をテーマに、曲を創りました。
それと同時に、季節の移り変わりを一つの旅として表現いたしました。

永遠に近い程の時間を過し、変わりゆく季節を見守り続ける、風の精霊達。
空を渡り、大地を繋ぐ精霊達は、世界の空気の澱みを無くし、澄んだ祝福をもたらします。

詞が語り継ぐ、清らかな地のその湿度と清浄感、
そして、たゆたう風の感覚を表現出来るように、曲を創っていきました。
掛け合う歌の響きや、さざめくギリシャ語のコーラスに、
雲の上を漂うような浮遊感を感じて貰えたら嬉しいです。

この楽曲の作詞は、みとせのりこさんにお願いいたしました。
前々から日本語歌詞で、各パートが綺麗な掛け合いになってる歌曲を作りたいと思っていました。
実は楽曲自体は2年ほど前に原型が出来ていたのですが、
今回みとせさんとコラボする事が出来なかったら、この曲は当分完成することなく眠ったままだったと思います。
アルトネリコ2のお仕事で参加させていただいた楽曲
「EXEC_with.METHOD_METAFALICA/.」にて、
みとせさんが、2つのヴォーカルパートに分かれ、
複雑に入り組んだメロディーの流れを損なうことなく、
美しい詞を書かれていて、とても感動しました。
その時、是非ともみとせさんに、この楽曲の作詞をお願いしたいと思いました。
「軌跡」はみとせさんに作詞していただけて、とても幸せな作品だと思います。
ご自身の活動がお忙しい中、素敵な詞を作ってくださったみとせのりこさんに、
この場にて心より感謝申し上げます!
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04.風と羅針盤
「遥かなる旅路」や、「軌跡」は、わりと大きな視点や、規模での旅を題材に
描いているのですが、この曲ではもっと身近な旅、
自分の心と向き合う旅、を描きたいなと思いました。
旅の中でふと過ぎる自分の心の揺れや、迷い、
そして、それを吹き飛ばしてでも進みたい、相手への想いを
曲中にて描けていたらいいな、と思っています。

それと同時に、実は前から、ライブに適したスピード感のある
元気な曲を作りたいなと思っていたので、
今回この曲を作れて、すごく楽しかったです!

私の作品は、どちらかというとあまりライブ向きではない曲が多いので、
ライブの際には、選曲やアレンジにかなり苦心する事が多くありました。
なので、ライブで映える曲・ライブのお客さんと一緒に楽しめる曲という事を
出来る限り考慮して、この作品を創りました。

拍子も、ライブのお客さんが一緒に手拍子して頂き安いように、
変拍子ではなくシンプルな作りにし、
ヴォーカルのキーも、出来たら一緒に歌って貰えるように、
やや低めに設定して。

とはいっても、ライブ向けの曲という縛りで、
肝心のCD収録に面白みがなくなってしまうのは本末転倒ですので、
ヴォーカルやコーラスも他の曲より遊び心を入れた歌い方にしたりと、
この曲の力強さと、風を切って駆けていくようなスピード感が
上手く出せるように、工夫してみました。
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05.調和〜焔の共鳴〜
火のエレメント(05〜08)のテーマは“終焉の炎”です。
文明の繁栄を司るのが炎なら、また文明に終焉の業火をもたらすのも、その炎。
終わりと始まりは、遥か遠い対極にある様に見えて、
その実は、表裏一体につながっている。
始まりがあるから終わりがある。
そして、終焉があるからこそ、あらたに生まれるもの、始まるものもある。
そんなイメージと共に、各作品を創ってゆきました。


- 奪い与え燃えゆく 赤き青き炎 めぐり行く時の輪と 重なり踊る -

火エレメントのプロローグとなるこの5曲目では、
このテーマ詞に合わせて、曲を創りました。

この曲では≪人工的に生み出された炎≫を、表現してみました。
文明の繁栄と寄り添うように、人工的に生み出され発展していく炎。
けれど、膨大な力を秘めたその炎は、いつしか文明さえも
滅ぼしかねない危うさを孕んでいるのです。
暗がりの中で、赤くそして青く。何かを暗示するように炎は揺れています。
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06.埋火
「埋火」は、灰の中に埋まった炭火が語源の言葉です。
燃え盛るのではなく、くすぶる炎。けれど、けして消えることのない炎。

この曲では、大火で滅んでゆく街の中で、
『“君”と“僕”二人の世界に訪れた終焉』を表現しようと思いました。
刹那的な、極限的な状況の下で生まれる、行き違いや葛藤。
吐露してゆく思いと、それぞれの選択。

今回、とても素敵な詞を、天野月子さんにご提供頂いたので、
この印象的な詞の世界観を、上手く生かした作品にしたく思いました。
天野さんの鋭い感性と繊細かつ大胆な言葉と、詞の世界観を
音楽が増幅する事が出来るといいな、と思いいつもの自分では
あまりやらない事も挑戦してみました。
例えば、編曲面で普段使わない音色等にも積極的に目を向けたりするなどして、
美しい退廃的な世界を形作っていけるように、模索してゆきました。

天野さんはとても尊敬しているアーティストさんなので、
今回コラボの機会を与えていただけて本当に幸せでした!

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07.レプリカーレ
「Replicare(レプリカーレ)」は、イタリア語で“繰り返す”という意味です。
この曲では、青白く灯る嘆きの炎をテーマに、曲を創りました。
そして、ポンペイの都市の悲劇からインスピレーションを受け
イメージを膨らませていった曲でもあります。

深い森を彷徨い歩く少女。
夜の闇に誘われて、彼女の足は、古い王国の遺跡へと辿り着く。
そこには、沢山の青い炎が、闇の深さに寄り添うように漂っていた。
冷たく静かに灯る炎は、亡霊達の記憶の残滓。
在りし日の哀しみに囚われた魂達は、いまだに自らの死に気付く事無く、
王国の滅びの日の記憶を“繰り返し”続けてる。
定められた悲劇をなぞり続ける、炎達の悪夢に
少女の心は呼応し、侵食されてゆく。

この曲では、レプリカーレのタイトルになぞらえて、
歌詞や曲の随所に繰り返しの手法を用いました。

1番のサビの歌詞の一部分を、2番のサビの最初に用いる等、
歌詞をべったりと繰り返すのではなく、サビの一部を既視感のように
次のサビに紛れ込ませる形で、この歪で不安定な世界を表現しようと思いました。

そして曲の展開でも、アレンジを加えながらフレーズを繰り返すことにより
定められた結末へと“繰り返し続ける”世界の様を表現。

また、曲の途中途中に、滅びの日の光景をイタリア語のコーラスで綴る事により、
少女が、過去の記憶達に段々侵食されていく様を表現しました。

けして救うことの出来ない世界。
零れてゆく絶望。悲鳴を上げていく心。
記憶が、夢が、現実に浸食し、混濁していく
不思議な悪夢のような感覚を感じて頂けたら幸いです。
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08.うみねこのなく頃に〜煉獄〜
“人の心に燃え広がる、狂乱の炎”をテーマに、
「うみねこのなく頃に」の、ゲームの流れに沿った時間軸を意識して、曲を創りました。

始まりは、ほんのささやかな予兆。
やがて舞台の上では、1つまた1つと、捩れた事件が溢れ出し、
人の心が、鬱屈した憎しみが、雪崩を起こすように崩壊してゆく。
箍の外れた狂える炎は、全てを焼き尽くさずにはいられない。
時間の流れに沿って、混沌と崩壊していく舞台の様。

この曲では、自分がゲームのEpisode4までをプレイして、
強く感じた想いや事柄を表現してみました。
プレイヤー毎に、感じた事や感想というのは、もちろん異なりますので、
何だか自分のイメージとは違うな…と感じられる方も、当然いらっしゃるかと思います。
もしよろしかったら「志方は、こんな風に感じていたんだー」という風に
プレイヤー各々の感じ方・表現の仕方の違いなども合わせて、
この曲を楽しんでいただけたらうれしいです!

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09.調和〜泡沫の子守唄〜
水エレメント(09〜12)のテーマは“感情”、そして“慈愛”です。
生命を育むその包容力や、哀しみも喜びも全てを包み込む、大いなる慈愛をテーマに
作品を創ってゆきました。


- 母なる海へ 波は寄せて返す 優しきゆりかごに 命は芽吹く -

水エレメントのプロローグとなるこの9曲目では、
このテーマ詞に合わせて、曲を創りました。

全ての生命の源にある、母なる海。
太古より変わらない姿で、ただ優しく寄せ返してゆく波の音。
囁くように小さくはじけた、泡の粒。

生命の全てに、感情の全てに宿る、水の息吹。
哀しみに零れ落ちた涙。喜びで体中を駆け巡る血潮。
よろこび、かなしみの全てに、母なる水の精霊が住まうのです。
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10.久遠の海
“別れの感傷”と“母なる慈愛”をテーマに、曲を創りました。

1番では、自らが旅立ちを迎えた時の想い。
暖かな場所を離れ、見知らぬ場所へと旅立つ不安や感傷。
そして2番では、旅立ちを見送る側の想い。
自分の目の届かない、新しい世界へと旅立つ人を見送る、
僅かな誇らしさ混じりの不安や感傷。

広大な海に母の慈愛のイメージをなぞらえて、
親元から旅立つ子どもとの想いと、
旅立ちを見送る親の想いの、両方の視点を表現してみました。

遥かな太古より、受け継がれてきた生命。
命は繰り返し育まれ、また旅立ち、そして新たな時代へと繋がれてゆきます。

ゴンザレス三上氏の、暖かく艶やかなアコースティックギターの音色が、
雄大な蒼の世界を、優しく彩って下さいました。
演奏なさるギターの音色の如く、とても温かで穏やかなお人柄の方でした。
収録の間中、その演奏とお人柄で、スタジオ内に優しい時間と空間を下さった
ゴンザレス三上氏に心より感謝申し上げます。

ずっと音楽を続けていくその先に、いつか私もこんな温かで優しい音楽を
作れるようになれるといいな。
素晴らしいアーティストの演奏を間近にし、一層の尊敬と憧れと、
さらなる努力と精進を心に誓いました。
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11.アオイロ缶詰
“無償の想い”をテーマに、曲を創りました。

君を大好きなキモチ。
君に、世界中の全てのタカラモノをあげたいキモチ。
君が微笑んでくれると、心の底から嬉しくなるキモチ。
君のために何かしてあげられたら、ただ、ただ、僕が嬉しいんだ。

好きな人への、純粋な感情。
青く、果てまで透き通った空のような、多幸感。
胸の奥から溢れる、暖かな感情を、どうぞ思い返して下さい。
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12.追想花
“亡き人への想い” をテーマに、曲を創りました。

おぼろげに光る、夜半の海。
空の星が海へ零れ落ちたかのように、無数に輝く海蛍達。
海原に咲く幽玄の輝きに、亡き人への癒えぬ想いが、波のように寄せて返す。

不意に断ち切られ、失ってしまった命を、静かに見送ることも出来ずに、
鮮やかな痛みが、癒える事も消える事もなく、心を乱し続けます。
過ぎていく無慈悲な現実に、感情が追いつけずに、
本当の別れをただ一瞬でも先送りに出来たらと、明けぬ夜を願うのです。

過ぎ去った日々が、戻る事はないのだと理解していても、
何度も過去を振り返ってしまうし、
そしてどんなに深い哀しみに溺れていたとしても、
その感情の忘却を、また恐れるのです。

そんな、複雑に入り混じり押し寄せる感情の波を、
この曲から少しでも感じて頂けたら、嬉しいです。
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13.調和〜大地の讃歌〜
地エレメント(13〜15)のテーマは“物語”です。
大地の上に人は栄え、絶える事無く次々と、物語は生まれてゆきます。
さまざまな国や地域の数だけ、その地に生きるさまざまな人の数だけ、
新たな物語が生まれ始まり、終わっていくのでしょう。
その中には後世にまで伝わる偉大な物語もあれば、
誰にも知られぬままひっそりと始まり、終わっていく物語もあるのでしょう。

未だその姿を保っている遺跡や、大地に刻まれた文明の証を見ると
いつも、過去その地で起こっていたであろう人々の物語に思いを馳せます。
どれだけ想像しても、果てがなく答えが見つからない、
謎に満ちた歴史の物語たちに、強い憧れを感じるのと同時に、
ふと思索から戻ってきた時、自分を取り巻く日常という小さな物語に、愛おしさを感じます。

今この瞬間も、大地に生きる数多の人々達が、愛しい物語を紡ぎ続けているのでしょう。


- 物語は集う 広大な大地へ 豊穣の息吹受け 幾億の命 煌めく -

地エレメントのプロローグとなるこの13曲目では、
このテーマ詞に合わせて、曲を創りました。

大地に生きる人々。
地を耕し、森を駆けその恵みを採取し、狩を行い今日の糧を得る。
それは、古代から連なる原始の喜び。今この瞬間を生きる、その輝き。

大地の恵みに対する、讃歌を描きました。

この曲が浮かんだ時に、脳裏に浮かんだのは、鮮やかな緑が幾重にも重なった、
深い森でした。密林、といったほうが正しいかもしれません。

大地、と、一概に言っても、色んな地域、地形や地帯があると思うのですが、
私に限っていうと、大地といわれて、真っ先に思い浮かぶのは生い茂った森です。
小さいころ、山で遊ぶことが多かったので、その影響かもしれません。
森の四季はまさに自然が描く物語のようで、折々の季節の物語を、
楽しみながら山野を駆けてました。
どんぐりを拾ったり、食べられる木の実や、草の実を採取したり。
さすがに狩はしていませんが、時々珍しい野鳥や動物にであったり。

ビルの森の中にいても、瞳を閉じれば、昔自分が駆け回った山や森林の記憶が
あざやかに浮かび上がってきます。
今はもうなくなってしまった懐かしい森への憧れが、未だ私の心の中に息衝いています。
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14.謳う丘〜Salavec rhaplanca.〜
土屋暁氏、作詞作曲の「謳う丘〜Salavec rhaplanca.〜」です。
PS2「アルトネリコ」シリーズにまつわる
「1人と999人の戦争」の物語が、哀しく、そして壮大に紡がれています。

土屋さんの描かれる、様々な“想い”が交錯する世界。
その豊かな物語に、より厚みのある表現ができるよう、
この曲ではいつもよりも多岐に渡った歌唱法を、用いてゆきました。

今回、とてもありがたいことに、作曲者の土屋さんより、コメントをお寄せいただきましたので
ご紹介させていただきますね。

 こんにちは。アルバム「ハルモニア」で「謳う丘〜Salavec rhaplanca〜」の
 作詞作曲をさせていただきました、(株)ガストの土屋と申します。
 この度は志方さんより、ラプランカ制作にまつわるお話をして欲しい、
 とのお話がありましたので、是非!とのことで、お話させていただくことにしました。

 志方さんのアルバムには、rakaの「EXEC_HARVESTASYA/.」と
 今回の「Salavec rhaplanca」と、2つの謳う丘を収録させていただいております。
 そして毎回「謳う丘」の制作には怪現象がつきものでして、
 今回の「Salavec rhaplanca」も、「前作よりも短い曲にする」と
 決めて創っていたのに何故か長い曲になってしまっていたり、
 「前作よりコーラスをシンプルにする!」と思っていたのに、
 前回よりモリモリボリュームアップしていたなどなど、
 様々な怪現象に見舞われながらも何とか完パケまでたどり着けたわけであります。

 そんなてんやわんやの創作だった「Salavec rhaplanca」ですが、
 今回はせっかくお話の場をいただけましたので、
 今回は制作時の思い出話などをしてみたいと思います。

 志方さんのアルバムに入れさせていただいている謳う丘シリーズは、
 「物語性のある音楽」をコンセプトとして創っています。
 今回は、ラプランカとマオの恋物語になっていますよね。
 私は大学の頃からオリジナル曲を描くようになりましたが、
 その頃からこの「物語性のある音楽」というものを模索していました。
 その中でも今作は、音楽(楽曲)という枠を取り払った所からのアプローチをしている、
 最も物語色が強い作品に仕上がったと思っています。

 前作「EXEC_HARVESTASYA/.」がご好評いただいていることもあり、
 今作はかなりの重圧でした。
 前作が既に、かなり物語性がある方の部類に入りますから、
 新たな驚きと楽しみを皆さんにお届けできるかがとても不安だったためです。
 そんなこともあって、作曲作業が一時止まってしまった時期がありました。
 曲的には、「少年は唯一人 誓いと共に駆けゆく」まで創ったときでした。
 ここから先を創ろうとしたとき、どうしても前作と構造が似てしまう事が
 気になって手が止まってしまったのです。
 しかも前作のように「希望パート」「絶望パート」や「敵」「自分」のような
 ギミック的なコーラス演出も思い浮かばず、前作よりも劣化しているのでは…!?
 と弱気になり、何度も描いては消して描いては消してを繰り返しました。
 その頃はまだ「如何にして作曲するか」ということを一生懸命考えていましたので、
 どうしても行き切れなかったわけです。

 その後、悩みに悩んで〆切も近づいてきた頃に吹っ切れて、
 「もう曲じゃなくてもいいや志方さんごめん」と頭の中で思いながら創ったものが、
 今世に出ているものです。
 音階無しの呪詛が何重にも連なるコーラスパートや、リズムなど有って無きが如しの太鼓、
 楽譜は有っても役に立たないような状態が2〜3分続くものを目を瞑って提出し、
 あー…怒られるーと頭を抱えて待つこと数日…。
 帰ってきたコーラスデータは、送った指示以上に「呪い」加減に磨きがかかっていました!!
 すげー!!怖い!迫力有る!!と、大変嬉しかったのですが、
 リアル呪いも入っているのかも…!と思い、ゾクゾクしてしまいました。
 …という事でこの場で懺悔をしておきます次第です…。
 無茶振りしてすみません!

 何にしても、なかなかやりたくても出来ない、やらせてもらえない「物語主導」の曲を、
 毎回自由にやらせていただいて、更に無茶なコーラスをそつなくこなす
 志方さんに敬意を表さずにはいられません。本当にありがとうございました。
 でも、もし次回があるのなら、今度は全然違ったアプローチにしよう…と切に思った土屋でした。
 これ以上やると誰もが死亡確定ですので。

 長々と書いてしまい申し訳ありません。
 最後まで読んでいただいた皆さま、ありがとうございました!


土屋さん、熱いコメントをありがとうございました!
無茶振りがない土屋さん曲は土屋さんらしくない!と思うので、
これからも素敵な無茶振りを楽しみにしております〜(笑)
「Salavec rhaplanca」の楽譜をいただいた時に、
「EXEC_HARVESTASYA/.」の楽譜量よりも少なかったので
今回は前みたいに大変な感じじゃないかも!と、うっかり油断してしまったのですが、
途中で楽譜が楽譜の意味をなさなくなっていて、悶絶しました(笑)
音階がないのはかわいいもんで、音符ではなく怪しいイラストで表現してる箇所もあって、
ある意味、「これ本当に楽譜?」と思ったのも、いい思い出です(笑)
たいへん! 語尾が(笑)だからけになってしまっている(笑)
謳う丘のティリアのロングバージョンで、どんな土屋さんの無茶振りが待ち受けているのか、
今から色んな意味で楽しみです!(笑)
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15.Amnesia
「Amnesia (アムネジア)」は、英語で“記憶喪失”という意味です。
この曲は、映画「こわい童謡 表の章」主題歌の、アレンジフルヴァージョンとなります。
“見失った物語” を題材に、曲を創りました。

深い、深い眠りの奥。
夢の中で“ワタシ”は、暗い森をゆらゆらと彷徨い歩く。
そこは、混濁した記憶を表すかのように、厚い霧に閉ざされ、
自分の影とさえもはぐれてしまいそうな、心許無さで満ちている。
薄れていく記憶の中に隠された、大きな秘密。
そして、子守唄の奥に閉ざされた、幼い痛みたち。

すべてを赦されたい、でも、赦されることはない、
何よりも自分の心の奥底に眠る記憶が、赦してはくれない。

フルヴァージョンのアレンジをする際に、記憶の森をさまようという幽玄の世界観と、
己の心を揺さぶる過去の記憶への恐れと
裏腹に感じる、もはや戻れない日々への懐かしさ、哀しさをより表現したいと思いました。

記憶の森を覆う霧はいずれ晴れ、いつの日か暗い森の終わりへと導かれることでしょう。
だけれども、森を抜けた目の前に広がる光景、
突きつけられる真実に救いはあるのでしょうか?
深い眠りから目覚めたときに、すべてを受け止め乗り越えていける強さを、
希望の欠片を、記憶の霧の中で彷徨う“ワタシ”が、
見つけることができるよう祈るばかりです。

この楽曲で、オカリナ奏者の宗次郎さんとコラボさせていただきました。
スタジオで言葉を交わさせていただいた宗次朗さんは
自然が、特に森が似合う素敵な方でした!
演奏なさっている時、宗次朗さんの背後に見知らぬ、だけど、どこか懐かしい
山や、森林が浮かんで見えるような気持ちになりました。

収録の時、旋律や曲の描きたいシーンごとに、
さまざまなサイズのオカリナを駆使して、
これ以上ないぐらい、素敵な演奏をしてくださいました。
本当にありがとうございます!

たくさんのオカリナを持参してくださっていたのですが、
楽器のサイズが違う場合はもちろんのこと、
同じサイズの楽器であっても、ひとつひとつ個性が違うのがはっきりわかって
音色を聞かせていただいている間、すごく興味深かったです。

オカリナは構造的にはとても単純で原始的な楽器です。
その素朴な楽器が織り成す、奥深い音の世界に魅了されました。
そして、宗次朗さんの多彩な表現力によって奏でられる
夢と現の狭間を漂うかのような、切ないオカリナの音色に、ただただ感激しました。
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16.調和〜Harmonia〜
「調和〜Harmonia〜」は、このアルバムのテーマソング的な位置付けの曲です。
≪風≫≪火≫≪水≫≪地≫各々のエレメントの物語が、永い旅を終え、集いあう。
やがて精霊達は調和し、大きな一つのうねりとなり、歓びと共に奇跡を呼び起こす。
そんなイメージで、創りました。

アルバムを聴いているうちに、気付かれた方も多いのではないかと思いますが、
01.05.09.13曲目の「調和〜シリーズ」は、この曲の歌詞とメロディーの一部を
モチーフとして抜粋し、アレンジを加えた作品です。
アルバムのコンセプトを考えているときに、
4大エレメンツが調和しひとつの曲になる、というギミックができればいいなと思い
試行錯誤の上、こういう曲の仕掛けとなりました。

「調和〜Harmonia〜」と、調和シリーズのそれぞれの曲を聞き比べて、
アレンジの違い等も楽しんで頂けたら、とても嬉しいです!

そして、この曲で工夫した点はというと、
歌では、各エレメントのフレーズ部分で、
風・火・水・地それぞれのイメージに合わせ、各々の歌い方を変えてみました。
歌詞も風→火→水→地へ、上手く循環していくよう、工夫しました。
歌詞カードを読み、4つのエレメントが紡ぐ自然の循環と息吹を思い描きながら
曲を聴き楽しんでいただけたら、これ以上の喜びはありません。

演奏面では、今回初めてリコーダーの多重奏を取り入れました。
使ったリコーダーは全部で7つ。
ソプラニーノ・リコーダー
ソプラノ・リコーダー
アルト・リコーダー
テナー・リコーダー
バス・リコーダー
グレートバス・リコーダー
コントラバス・リコーダー

各エレメントのフレーズ部分では
風フレーズでは、ソプラニーノリコーダー。
火フレーズでは、テナーリコーダー。
水フレーズでは、ソプラノリコーダー。
土フレーズでは、バスリコーダー。
と、各エレメントのイメージに沿ったリコーダーのソロ演奏を取り入れています。

今回初めて実物を見たリコーダーがいくつかあったのですが、
その中でもコントラバス・リコーダーの印象がとても強かったです。
スタジオで初めて見たときに「うわでか!!!!!!」と大声で叫んでしまいました。
すごいものみちゃった、って感じです、大興奮しました(笑)
演奏者さんは身長が180cmぐらいあったのですが、その方が小さく見えるような楽器の大きさ!
もはやリコーダーというよりかは、別の楽器のようでした。
音色も聞いただけでは、きっとリコーダーだとは思えない野太さで
いろんな意味でリコーダーのイメージと概念を吹き飛ばしてくれたダイナミックな楽器でした。
日本でもこの楽器を所有してる方は、数人いるかいないか、らしいです。
貴重なものを演奏していただいちゃいました!
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17.Harmonia〜見果てぬ地へ〜
アルバムの最後を飾るこの曲は、CDのエンディング的な位置付けの曲になります。
1st、2ndアルバムでは、1曲目と2曲目を繋げて、1つの流れにする手法を用いましたが、
この3枚目のアルバムでは、16曲17曲と最後の2曲を繋げて、
グランドフィナーレのような華やかさを表現したく思いました。

ちょっと分かりづらい例えかもしれませんが、映画に例えるなら、
16曲目の「調和〜Harmonia〜」が、映画のエンディングシーンで
17曲目の「Harmonia〜見果てぬ地へ〜」が、スタッフロールのイメージです。

この最後の曲では“終わり”とそしてまた“新たな始まり”が重なり合うようなイメージで創りました。

全ての物語が終わり、静けさで満たされた荒野に、新たに芽生えた一つの命。
生れ落ちたばかりの、無垢な身体と心に、響き渡る“始まりの歌”。
精霊達の奏でる調べに合わせ、その喉笛は高らかに生命を歌い上げる。
そして、歩くことを覚えたばかりの脚は、
朝焼けの方角へ、見果てぬ世界を目指し、新たなる旅へと向かう。

物事の「終わり」は次の旅への「始まり」だと思っています。
「Harmonia」というアルバムはこの曲で終わりますが、
また、次のアルバム、別の世界へと、音楽は続いていきます。
そうでありたいと、思っています。

いつか何処かで、皆さんが新たな旅立ちを迎えられた時に、
この曲を、ふと思い出してもらえたら、光栄です。
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